馬と藁の真実|なぜ食べる?敷き藁の役割と疝痛リスク・敷料比較
競走馬の厩舎や乗馬クラブの馬房を覗くと、ふかふかに敷き詰められた黄金色の藁の上でくつろぐ馬の姿や、足元の藁をもぐもぐと食む姿を目にします。愛馬が寝床の藁を食べる様子に「お腹が空いているのか」「お腹を壊さないか」と不安を覚える飼育者やファンは少なくありません。
馬と藁は、古くから馬房管理において切っても切れない深い結びつきを持っています。しかし、敷料としての優れた機能性がある一方で、過剰な摂食による消化器疾患(疝痛)や粉塵による呼吸器への影響など、プロの現場でも厳格な管理が求められるデリケートな存在です。2026年現在の最新獣医学知見と厩舎現場の実態データをもとに、馬が藁を食べる深層心理から敷料選びの最適解までを徹底解説します。
📌 【この記事の重要ポイントまとめ】
- 要点1:馬が敷き藁を食べる主因は「咀嚼欲求の充足」と「繊維質の補給」であり、空腹だけでなく退屈やストレス発散の行動としても現れる。
- 要点2:麦わらや稲わらは高いクッション性と保温性を持つ反面、難消化性繊維が多く、水分不足や過食が重なると「便秘疝(食滞)」の引き金になる。
- 要点3:馬房敷料はおがくずやシェービング、ペレットなど多様化しており、馬の呼吸器状態、アレルギー、蹄の健康状態に応じた使い分けが不可欠である。
【疑問を解明】馬が藁を食べる理由と牧草・粗飼料との決定的な違い
馬が足元の敷き藁を熱心に食べる姿を見て、栄養不足を心配する声は後を絶ちません。しかし、草食動物である馬にとって「繊維質のものを噛み続けること」は、消化器官の健康維持と精神安定に直結する根源的な本能です。
野生下の馬は1日のうち14〜16時間を採食に費やします。一方、現代の飼育環境では高栄養な濃厚飼料(燕麦や配合飼料)が短時間で給餌されるため、胃の中に胃酸が滞留しやすく、咀嚼欲求が満たされない状態に陥りがちです。目の前にある藁は、その満たされない咀嚼欲求を手軽に解消するための格好の対象となります。
ここで重要なのは、主食である「牧草(チモシーやアルファルファなどの粗飼料)」と「藁(麦わら・稲わら)」の栄養学的な違いです。牧草は葉と茎に適度な粗タンパク質(約8〜18%)と可消化養分を含み、馬の腸内細菌叢によって効率よくエネルギーへと変換されます。対して、穀物の収穫後に残る茎である藁は、粗タンパク質が3〜5%程度と極めて低く、木質化が進んだ難消化性の「リグニン」や「セルロース」が主成分です。
つまり、藁は馬にとって「お腹を満たし、噛む行為を楽しむための低カロリーな繊維源」にはなり得ても、身体を作る主要な栄養源にはなり得ません。十分な牧草が給餌されていない場合、不足した繊維質を補おうとして敷き藁を過剰に貪り食う現象が発生します。

【役割とメリット】馬の敷き藁が果たす5つの機能と競走馬の寝床事情
中央競馬の美浦・栗東トレーニングセンターや名門ブリーディングファームにおいて、伝統的に敷き藁が愛用され続けているのには明確な理由があります。単なる床材にとどまらない、馬の生理機能に寄り添った5つの重要な役割が存在します。
- 関節と蹄を保護する高いクッション性:500kgを超える馬体重が横臥する際、コンクリート床の硬さから飛節や肩、蹄を守り、褥瘡(床ずれ)や関節炎を予防します。
- 卓越した断熱性と保温効果:藁の内部にある空気層が床下からの冷気を遮断し、冬季でも体温低下を防ぎます。
- 排泄物の水分吸収とアンモニア抑制:尿を素早く下層へ逃がし、馬体が直接濡れるのを防ぐことで皮膚炎を抑制します。
- 自然な行動欲求の充足(エンリッチメント):藁を突いたり選り分けたりする探索行動が、馬房内での退屈や常木癖(ゆうへき:柵をかじる等の悪癖)を和らげます。
- 蹄の水分バランス維持:適度な油分と通気性により、蹄が過度に乾燥して割れる「裂蹄」や、湿気による「蹄叉腐爛」のリスクを低減します。
トップクラスの競走馬が集まるトレセン厩舎では、寝床の環境がアスリートとしての回復力に直結します。ふかふかの麦わらが敷き詰められた馬房は、深いノンレム睡眠を促し、筋肉疲労の早期回復を強力に後押しします。
【徹底比較】馬房敷料の種類とおがくず・ウッドチップとの性能差
近年は敷き藁だけでなく、木材加工副産物であるおがくずやシェービング(削り節)、特殊ペレットなど、多様な馬用敷料が実用化されています。それぞれの特性を正しく理解し、飼育環境や馬の体質に合わせて選定することが求められます。
| 敷料の種類 | 特徴・吸水性・コスト | 一般的な基準・相場感 | 編集部の見解・適性評価 |
|---|---|---|---|
| 麦わら(小麦・大麦) | クッション性・保温性◎、吸水性◯。明るい色調で馬房が温かみを持つ。 | 1ベール(約20kg)あたり1,800円〜2,800円程度。 | 競走馬や分娩房の標準。誤食による疝痛癖のない馬に最適。 |
| 稲わら | 入手性◯だが繊維が硬く節が多い。カビが発生しやすく粉塵に注意。 | 国内調達で比較的安価(1,200円〜2,000円/束)。 | 消化器トラブルを引き起こしやすいため、主寝床には麦わらを推奨。 |
| おがくず・ソウダスト | 吸水性◎、清掃効率◎。ただし微細粉塵が多く呼吸器への負担大。 | 製材所直供給で安価〜中程度(1,000円〜1,800円/袋)。 | 敷料を異常に食べる馬の対策に有効。アレルギー馬には不向き。 |
| ウッドシェービング(削り節状) | 除塵処理品は衛生性◎。吸水性と見た目の清潔感に優れ、誤食なし。 | 輸入品中心で高価格帯(2,500円〜3,800円/圧縮パック)。 | 乗馬クラブのプレミアム馬房や呼吸器疾患を持つ馬のファーストチョイス。 |
| ストローペレット | 麦わらを高温圧縮。吸水速度は藁の約3倍。粉塵が極めて少ない。 | 導入初期コスト高(3,000円〜4,500円/袋)。補充量は少。 | 清掃の手間と廃棄量を劇的に減らしたい都市型乗馬クラブで高評価。 |

【現場の警告】敷き藁の誤食による疝痛リスクとネットの誤解
敷き藁の使用において最も警戒すべきリスクが、馬の命を脅かす消化器疾患「疝痛(せんつう)」です。特に藁の大量摂取によって引き起こされる「便秘疝(大結腸便秘・盲腸食滞)」は、発見が遅れると開腹手術や生命の危機につながります。
藁は非常に強固なリグニン構造を持つため、胃や小腸で分解されず、大腸(盲腸・大結腸)の微生物発酵に依存して消化されます。しかし、以下の条件が重なると腸内で藁が詰まり、激しい通過障害を引き起こします。
- 飲水量の低下:冬季の寒さや水飲み場の汚れで水分摂取が減ると、腸内の藁が水分を奪って巨大な硬い塊を形成します。
- 歯の摩耗・トラブル:高齢馬や歯の咬み合わせ(オドントロジー)に問題がある馬は、藁を十分にすり潰せずに長いまま飲み込んでしまいます。
- 運動不足:休養中や悪天候で馬房待機が続くと、腸の蠕動運動が低下して閉塞リスクが跳ね上がります。
ネット上では「馬は本能的に毒でないものを知っているから、藁を食べても全く問題ない」という言説が散見されますが、これは現場を知らない明らかな誤解です。JRA等の獣医臨床現場でも、敷き藁を大量に食べる癖のある馬は、即座におがくずやウッドシェービングへの敷料変更が行われます。
さらに見落とされがちなのが、古くなった藁や湿った藁に潜む「カビ胞子(真菌)」です。藁に含まれるアスペルギルスなどの真菌胞子は、馬が吸い込むことで気道にアレルギー性炎症を引き起こし、慢性の呼吸器疾患であるRAO(反復性気道閉塞/馬の喘息)を誘発します。咳き込みや運動能力低下の原因となるため、敷料の品質管理は極めてシビアです。
【実態検証】乗馬クラブ・厩舎現場で見えた清掃管理と堆肥化・再利用
全国の乗馬クラブや育成牧場における現場管理の成否は、日々の「ボロ出し(排泄物清掃)」の徹底度にかかっています。敷き藁は快適性が高い反面、清掃管理の労力が敷料の中で最も大きい部類に入ります。
プロの現場における標準的な清掃ルーティンでは、1日最低2〜3回のボロ出しが実施されます。朝の集中的な作業では、汚れた藁と濡れた下層部をフォークで丁寧に取り除き、乾燥した清潔な藁を中央に寄せて新しい藁を補充します。放置された湿った敷き藁は、蹄を腐らせる蹄叉腐爛菌の温床となり、強力なアンモニア臭が馬の呼吸器粘膜を傷つけるからです。
一方で、敷き藁には環境循環における圧倒的なメリットが存在します。それが「高品質な堆肥(マニュア)への再利用」です。
木製のおがくずは分解に数年を要し、土壌の窒素を奪う「窒素飢餓」を起こしやすいため農家から敬遠されるケースがあります。しかし、馬の糞と混ざり合った麦わらは、適切な切り返しと通気を行うことで60〜70℃の発熱発酵を促し、わずか3〜6ヶ月で良質な有機完熟堆肥へと生まれ変わります。この堆肥はマッシュルーム栽培の培地や、有機野菜・果樹園の土壌改良材として高値で取引され、地域循環型農業の貴重な資源として2026年現在も高く再評価されています。

【プロの結論】馬用敷料の最適解|愛馬の体質と施設環境に応じた選択基準
すべての馬にとって100点満点の単一敷料は存在しません。愛馬の健康状態、癖、施設の作業環境を冷静に分析し、適材適所で判断する基準を提示します。
敷き藁(麦わら)を選択すべきケース
- 疝痛の既往歴がなく、粗飼料を十分給餌しても敷料を暴食しない馬
- 皮膚がデリケートで床ずれを起こしやすい馬、または分娩前後の繁殖牝馬
- 排出した使用済み敷料を地域の契約農家へ堆肥としてスムーズに供給できる施設
- 冬季の寒さが厳しく、馬房内の保温・断熱性を最優先したい寒冷地
おがくず・シェービング・ペレットへ切り替えるべきケース
- 敷き藁を見境なく食べてしまい、過去に便秘疝や消化不良を起こした馬
- 慢性的な咳、鼻汁、アレルギー性気道疾患の兆候がある馬
- 厩務スタッフの人手が限られており、清掃・ボロ出しの作業時間を短縮したい施設
- 都市部に位置し、使用済み敷料を産業廃棄物として効率的に処理・委託する必要がある施設
【馬 藁】に関するよくある質問(FAQ)
Q1:麦わらと稲わらでは、どちらが馬の敷料に適していますか?
A1:圧倒的に麦わら(小麦・大麦)が適しています。麦わらは茎の中空構造がしっかりしており、クッション性と通気性に優れ、馬の消化管を傷つけにくい特性があります。一方、稲わらは節が硬く、シリカ(ケイ素)成分が多く含まれるため消化率がさらに低く、カビ毒(マイコトキシン)のリスクも高いため、敷料としての常用は推奨されません。
Q2:敷き藁をバクバク食べてしまう馬への即効性のある対策はありますか?
A2:まずは主食となる良質なチモシー牧草の給餌量を増やし、空腹時間を作らないよう「スローフィーダー(細目乾草ネット)」を活用して採食時間を延ばしてください。それでも改善しない場合は、物理的に食べられない「除塵処理済みウッドシェービング」や「ストローペレット」へ敷料を完全変更するのが最も確実で安全な予防策です。
Q3:馬房の敷き藁はどれくらいの頻度で全交換すべきですか?
A3:毎日の部分清掃(ボロと濡れた部分の除去+新藁の補充)に加えて、1〜2週間に1回は馬房内の敷料をすべて排出し、床面を完全に乾燥・消毒する「全換え(総入れ替え)」を行うのが衛生管理上の国際標準です。
Q4:馬房から出た敷き藁のゴミは、家庭菜園にそのまま撒いても大丈夫ですか?
A4:生のまま撒くのは避けてください。未発酵の藁や馬糞は土中の窒素を急激に消費し、植物の生育を阻害するほか、病原菌や雑草の種子が含まれている可能性があります。最低でも3〜6ヶ月間、定期的に切り返して発酵熱(60℃以上)を通した「完熟堆肥」にしてから土壌に鋤き込んでください。
まとめ:愛馬の健康を守る最適な寝床環境と管理の鉄則
馬にとって敷き藁は、単なる寝床のクッションにとどまらず、精神を落ち着かせ、本能的な探索行動を満たす伝統的かつ優れた資材です。しかしその恩恵を享受できるのは、徹底した衛生管理、適切な粗飼料の給餌、そして個体ごとの消化器リスクへの目配りがあってこそです。
「昔から使われているから」という慣習にとらわれず、愛馬が藁を食べる頻度やボロの状態、呼吸の様子を日々観察してください。個々の馬の体質や行動癖に合わせて麦わらと近代的な木質敷料を柔軟に使い分けることこそが、愛馬の健やかな馬生と高いパフォーマンスを支える揺るぎない基盤となります。 (出典: 馬 藁(Yahoo!ニュース))